VDSのおかげで、くぼみのある路面でさえ凹凸を感じることなく走れます

ステアリング補助機能(VDS)は、ボルボが世界に誇る革新技術だ。トラック・ドライバーの身体に起きがちなトラブルを防ぐだけでなく、現実を超えた秀逸なステアリング応答性を実現する。

トラックで森の中を走るドライバー。

ボルボのステアリング補助機能(VDS)は、操縦性とドライバーの快適性・安全性を向上する技術だ。

ステン・ラグヌールト

シニアエンジニアのステン・ラグヌールトは、VDSの主要機能の一部について開発を担当している。

車両のステアリング装置は、自動車の進化に伴って変化を遂げてきた。誕生当初は1本のレバーだったが、19世紀末に現在の自動車に似たステアリング・ホイールが出来上がった。もう一つの大きな進歩は、油圧アシスト機能を備えた“サーボ”ステアリングだ。このサポート機構は、車両が大型化・重量化するにつれていっそう重要性を増した。これにより、開発プロセスはVDSという新しいステージに移った。ボルボ・トラックでシステムソフトウェアの開発を担当するヤン=インゲ・スベンソンが言う。 

「低速時には、積載量が多い車両でも指一本で軽々と操ることができます。また、高速道路ではこのVDSのシステムによって方向安定性が向上します」 

システムの基礎となっているのは典型的な機械式のステアリング装置だ。ステアリング・ホイールとステアリング・ギアがステアリング・ロッドで結ばれ、油圧サーボシステムの作り出す力でドライバーのステアリング操作を補助する。こうした従来型ステアリングとVDSが最も大きく異なるのは、ステアリング・ギアに電子制御式の電動モーターが装着されている点だ。

このモーターはステアリング・ギアと連携して動作する。低速時には、モーターのパワーアシスト効果によってステアリング操作が驚くほど簡単になる。高速時には、電動モーターがステアリングを制御して、ドライバーに伝わる振動を自動的に除去する。 

私は「そんなことは絶対に無理だ、できるわけがない」とばかり言っていたのですが、キャブ開発部門の有能な仲間たちが協力してくれたおかげで実現にこぎ着けました。

ステン・ラグヌールト

ボルボ・トラックのシニアエンジニア

ヤン=インゲ・スベンソン

ヤン=インゲ・スベンソンは、VDSのシステム・ソフトウェア開発に携わったエンジニアの1人だ。

電動モーター自体は、角度基準信号発生器を内蔵した管理ユニットからの信号によって制御される。この管理ユニットこそ、VDSの頭脳にあたる部分だ。トラックのさまざまな部分に配置されたセンサーを通じ、管理システムが車両の状態に関する情報を収集する。システムハードウェア開発担当のステン・ラグヌールトが説明する。 

「センサーは多種多様な場所に配置されており、それらによって得られる情報を総合すると、トラック全体にいま何が起きているのかを正確に把握できます。これには、たとえばトラックのスピードや、前進・後退のどのギアが選択されているか、といった情報が含まれています」と、システムハードウェア開発責任者、ステン・ラグヌールトは説明する。 

システムを構成する重要なコンポーネントの一つが、電動モーターに内蔵されたセンサーだ。このセンサーはトーション・ロッド(ねじり棒)に取り付けられ、ドライバーがステアリングを切る力と角度を検知する。そのデータに基づいてシステムの各種機能が作動することで、完璧なステアリング応答性が実現する。 

管理ユニットに伝わった情報はシステムソフトウェアによって分析され、電動モーターに制御信号が送られる。すると、センサーによって検知された複合的な情報を補正するようにトラックが動作する。一連の動作にかかる時間は1,000分の1秒未満。ほんの一瞬で最適なステアリング応答性が導かれるのである。

制御ユニットの各種機能のうち最も重要なものは、直進補正機能だ。センター位置が電動モーターで常に補正されるため、路面の凹凸や路肩の傾斜があっても、ドライバーがステアリングを微調整することはまず必要ない。 

「例えば、ブレーキをかけたときにタイヤと路面の間に作用する摩擦力が左右で異なる場合です。するとトラックがどちらかの側にずれようとする力が働き、それに応じてステアリングが動いてしまいます。 

VDSの機能を簡単な言葉で表現するなら、実際の状況から好ましくない要素を除去して、より快適な運転を可能にするフィルターのようなものだ。言うまでもなく、こうしたシステムは一朝一夕に実現できるものではない。ボルボ・トラックがこのシステムの開発を始めたのは8年前のことだ。 

VDSの電気系統コンポーネント。

ステアリング補助機能(VDS)は、ステアリングの角度、フロントアクスルの車輪速度、車両の速度など、トラックの状況に関するさまざまな情報を処理しながら機能する。

 

「途中、難問に悩まされたことが何度もありました。例えばキャブ設計担当からすると、純粋に物理的な意味で、キャブ内にモーターを取り付ける場所をどうやって確保するかが大きな問題でした。私は『そんなことは絶対に無理だ、できるわけがない』とばかり言っていたのですが、キャブ開発部門の有能な仲間たちが協力してくれたおかげで実現にこぎ着けました」

ステン・ラグヌールトは笑いながらこう話す。それ以外の労力の大半は、高度なソフトウェアの開発に注ぎ込まれた。開発チームのメンバーは力を合わせて、管理ユニットが正しく機能するのに必要な計算処理を組み込むことに成功した。

以前は両腕でステアリングを操作しなければならなかった場所も、いきなり指一本で走れるようになったのですから、まったく凄いものです。

ヘンリク・グスタフソン

トラック・ドライバー

ヘンリク・グスタフソン

テスト・ドライバーのヘンリク・グスタフソンは肩の痛みに悩まされていたが、VDS搭載のトラックを運転するようになってすっかり解消したという。

また、また、大勢のテスト・ドライバーがチームに協力してくれたこともプロジェクト成功の一因だ。彼らが開発陣の立ち会いの下で実行した多数のテストによって、ステアリングがどう応答すればドライバーにとって望ましいかを知ることができた。 

「ステアリングの応答をさまざまに変化させた数多くのテストシナリオを、ただひたすら実行してもらったのです。そうして集めたデータを突き合わせて検討した結果、管理ユニットのソフトウェアをどのように設定したら最適なステアリングの応答を実現できるかが分かりました」(ヤン=インゲ・スベンソン)

木材運搬トラックを運転するヘンリク・グスタフソンは、開発作業で主導的な役割を担ったドライバーの一人だ。彼は毎日、新型ボルボFHでスウェーデン森林地帯の奥深くに毎日出掛ける。彼の運転技術と新型トラックをもってしても、狭くてぬかるみの多い林道の走行は大きな困難を伴う。 

「このテスト用トラックで1年間走り続けましたよ。開発作業に協力するというのは、やりがいのある仕事でしたし、とても楽しい経験でした。私が気づいて指摘した事柄によって、皆さんの乗るトラックが実際に改善される。そういったことを実感できるのは面白いものです」 

ヘンリクの木材運搬トラックは、積み荷を満載すると総重量が60トンになる。こうしたトラックで狭くて路面条件の悪い道路を走行するのは、物理的に難しいことだ。ごく小さな石ころや木の根の感触にも神経を使って、微妙なステアリング操作を続けなくてはならない。首・肩・腰をはじめ、全身にかなりの負担がかかる。 

「狭くて曲がりくねった道が多いノルウェーでトラックを運転していたことがあります。そのせいで左肩を悪くしてしまい、肩甲骨のあたりに痛みが走るようになりました」 

ところが、VDS搭載のトラックを運転するようになってから、痛みが嘘のように消えたという。 

「今では、悪路でもどこでも安心して楽に走ることができます。以前は両腕でステアリングを操作しなければならなかった場所も、いきなり指一本で走れるようになったのですから、まったく凄いものです。システムが補正してくれるおかげで、くぼみのある路面でさえ凹凸を感じることなく走れます」 

しかも、ヘンリクが大きな違いを実感しているのは狭い林道を走るときばかりではない。木材を満載した車両は重心が高く、特に轍や風の影響を受けやすい。しかし、このシステムはそうした条件にも対応し、すっかりリラックスして走ることができる。広い道路でも同様だ。 

「森の中を走るときは低速なので、ステアリングは軽いほどいい。一方、高速道路ではある程度の重さがなくては困ります。このシステムでは、スピードに応じてステアリングの重さまで自動調整されるのです。さっきも言いましたが、次に買うときはVDS搭載のトラックしか目に入りません。絶対です!」と、ヘンリクは笑って言い切る。

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